面接の達人は居ても、面接官の達人は居ない
面接の達人と言う本があります。
- 作者: 中谷彰宏
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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久しぶりに書店で立ち読みしました。面接官だったころは毎年必読で、受け答え丸暗記型の学生に対して「その志望動機、メンタツ(面接の達人の略称)まんまだね?」といじめ・・・いや、鋭角な質問で受験者の心をえぐったものです。
これを見ると「本当に学生さんは大変だなぁー」と思う一方、私が就活生だった頃と何も変わってない就活の現状に絶望的になります。具体的に何を絶望しているかというと、そういう現状そのものではなく・・・
今の就活スタイルに疑問を感じ、改善をしないセンパイ人事達
です。
ここ10年で本当に何も変わってないです。恐らくですが、リクナビが出来てから、20年程全く変わってないと思います。
それは50年続いている終身雇用と年功序列の上で、「就活は洗練されつくした」と言う人も居ると思いますが、私は現在の就活は全く洗練されていない、極めて生産性の低いシステムだと思っています。
今回は、鬼人事から見て、どの点を絶望したのかを記します。
絶望その1:面接1発勝負のフローを改善しない
面接の達人Web記事にも以下のように書かれています。
じっくり話してみると面白い人材なのに、10分間の面接で、自分を売り込むとなると、さっぱりよさが伝わってこないのだ。
-中略-
たかだか10分やそこらで人間を判断されてはたまらない、と君は言うかもしれない。
そういう人はサラリーマンには向いていないから、ペンションでも経営したほうがいい。
ビジネスの現場では10分で商談を進めていかなければならないのだ。
現状での面接では確かにその通りです。人気企業であれば10分かそこらの面接で採否を決定します。
でも、それ、本当に良いの?
企業は大事な商談を10分のプレゼンのみで進めたりはしません。サラリーマンの生涯賃金が2億円とすると、40年で2億円の投資案件に対して、10分×3回のプレゼンで全てを決めるなんて無謀なフローは設定しません。
実際に投資案件をコンペで決める場合
位のフローは最低限設定するでしょう。
確かに最後のコンペで与えられる時間は10分かもしれませんが、候補企業はそれまでに複数回、それこそ数時間かけて企業担当者と会っていますし、候補企業からA4で100枚超の莫大な量の提案書を企業担当者は受け取っています。
もし、就活スタイルで2億円の投資案件をコンペで決めるならば
これ、実際にやったら役員からブン殴られますからね(笑)
「こんなA4で4,5枚の情報ぽっちで判断できるわけないでしょ!」
「候補企業とどれ位ミーティング重ねたんだ?・・・30分?ヤル気あるのか!!」
「2億円の案件だよ!?分かってる?!」
ビシッ!バシッ!ドカッ!(笑)
就活スタイルというのはこんなずさんな状態な訳です。それなのに、学生に対し「面接10分1発勝負で自分を売り込めなきゃサラリーマン失格だ!」なんて、私から言わしてもらえば「そんなフローで2億円の投資案件を判断する採用担当こそサラリーマン失格だ!」です。*1
こういうサラリーマン失格な採用担当がうようよいるせいで、以下のようなリスクが放置されています。
- 本来なら非常に優秀な人材だが、1発勝負で緊張した人を低評価するリスク
- 実務能力が劣り、プレゼンテーション能力(容姿含む)に長けた人材を高評価するリスク
- プレゼンテーション能力が比較的不要な事務職や研究職に対して、その能力が評価に深く相関するリスク
結果的にリスクは顕在化し毎年相当数の受験者が正しく評価されずにいるから、メンタツが毎年のように売れ続けているんじゃないでしょうか。
例えば共通一次面接会を実施すれば、これらのリスクは相当程度減らせると思いますが、企業はそういう事をキチンと考えてる?と絶望するわけです。
絶望その2:メンタツ本は多いが、メンセツカンタツ本は少ない
面接の達人をメンタツと呼ぶならば、面接官の達人すなわちメンセツカンタツはあるのでしょうか。
Amazonで「面接」と入力して、本を検索した結果がこれです。
Amazon CAPTCHA
- 就活生向けの面接本 24冊中、15冊
- 面接官向けの面接本 24冊中、5冊
※学校面接など就活以外が4冊
面接は高度なスキルが求められますし、新卒で1人2億円、10人新卒採用したらの20億円の40年投資です。それなのに、メンセツカンタツが比較的求められていない事実・・・。
学生の方がよほど確りと就活に対して「仕事」しているように思えるのは私だけでしょうか。
かく言う私は面接官になる事が決まった時、メンセツカンタツを3冊程買い、そこに書かれている心理学的な素養を得る為にロジャーズとマズロー心理学の本、フットインザドアー・クローズドクエッションと言った会話法を学ぶ為の本、あとは面接のタブー*2を記した小冊子などを購入したのを記憶しています。
このように面接官たる者全てがメンセツカンタツを買い求めれば、もっとAmazonがにぎわうと思いますが、現実にはそうなっていません。書店に行ってみると、その差は恐ろしいほど顕著です。
私自身が就活・転職活動を通して、これまで数十人の面接官*3に会いましたが、しまった!見抜かれた!スゲー!と尊敬できる面接官は20%程で、60%は印象操作と籠絡が可能な普通レベル、20%は入社意思を削ぐような面接官失格レベルでした。
これ、「入社後に自社で育てるから、採用した新卒者が最低限レベルの素養を持っていればぶっちゃけ関係ない」と考える人事と、「退職した新卒入社者と採用活動との関連性」を深く考えない経営者が多いからだと思いますが、本当にもったいない事です。
メンタツを読んで、確りと自分をアピール出来るように準備する就活生を企業が望むのと同じレベルで、メンセツカンタツを読んで確りと受験者の本質を汲みとれる準備をする面接官が望まれるべきだと思います。
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以上、絶望理由を挙げたわけですが、つまり「面接の達人は居ても、面接官の達人は居ない」「本気で就活に励む就活性が大勢いる一方で、本気で採用業務に励む企業が少ない」という状況が容易に推測できる状況に絶望しているわけです。そこに大いに無駄やリスクがあるだろう、と。
しかし、そもそも面接官が達人にならなくても十分に応募者を選考できる、応募者も面接の練習などしなくても的確に評価されるという仕組みこそ目指すべきです。
そう!それが共通一次面接会なのです!