鬼人事クマさんのブログ

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他部署の業務を引き受ける事は全く会社のためにならない

「余裕がある時は他部署の業務を積極的に手伝う!」
「他部署が困っているのを放っておけない!」
という認識を持っている社会人のみなさん。


ちょっと、待って!


不用意に他部署を助ける事は、実は会社のためになりません。

その理由を以下に記します。

業務効率化のインセンティブが著しく損なわれる

これが一番重要です。

あなたが良かれと思ってやっている“助ける”という行動は業務効率化の芽を摘んでいます。

「余裕がある場合は他部署の仕事を助ける」とは、つまり、「自部署の仕事を終えれば、他部署の仕事が待っている」という事を意味します。

その状態は非常にマズいです。

たとえばマラソンをしているとしましょう。

「120分間、走れ!」と言われるのと、「42km、走れ!」と言われるのとでは、どちらが早く走れるようになるでしょうか。

また、「8時間働け!」と言われるのと、「自分の仕事だけをすべてこなせ!」と言われるのとでは、どちらが早く仕事をこなすようになるでしょうか。

「120分間、走れ」「8時間働け!」では、速く走れば走るほど、仕事の量をこなせばこなすほど、自分への負荷は増えていきます。

つまり、「120分間、走れ!」では、速く走れば走るほど疲れますし、「8時間働け!」でも人の2倍、3倍と働けばその分疲れます。

速く走る、倍働く、へのインセンティブがむしろマイナスに働いている状態です。

仕事自体が楽しくて楽しくてしょうがない!!という社畜以外はこのマイナスのインセンティブにより、なるべく遅く・少なく済ませようとします。

一方で「42km、走れ!」では、オリンピックに見るように、時間短縮の工夫=効率化が物凄く進みます。

時間を短縮すればするほど評価が上がり、本人にとっても栄誉や富といったプラス効果もあるのでそれが時間短縮のインセンティブにつながっています。

仕事でも同じで「自分の仕事だけをすべてこなせ!」では、早く終わらせれば終わらせる程評価され、かつ、自分のゆとり時間が増える(=時給が増える)というインセンティブが働くので業務改善が物凄く進みます。

しかし、「自分の仕事をこなしたら、他部署を助けろ!」ではどうでしょう。

早く終わらせれば終わらせる程評価されるという部分は変わらないかもしれませんが、自分のゆとり時間が増える(=時給が増える)というインセンティブが完全に失われてしまうので、業務改善は思うように進まなくなるのは当然です。

―――

また、他部署の仕事を助ける者だけではなく、仕事を助けてもらう者にとってもマイナスが大きいです。

それは「自分の仕事が終わらないでも、他部署が助けてくれるだろう」という期待が生まれてしまうからです。

「背水の陣」という言葉は聞いた事があると思います。

古代中国の戦国時代に韓信という軍人が居ました。

彼の軍隊は寄せ集めの少数の兵隊で、対する趙国の軍隊は大軍で精鋭ぞろいでした。

普通に戦えば壊滅必至ですが、彼は川の橋を敢えて壊し、その手前に陣地を築き、「退けば溺死」という状況を作りました。

結果は彼の軍は猛然と敵の精鋭軍に突撃し、ついに敵軍の大将を捕虜にしました。

ここで大事なのは「何が何でも自分がやらなくてはならない」という認識と、「誰かがやってくれるかもしれない」「やらなくても大丈夫かも?」という認識との差です。

この認識の差が顕著に表れるのが、仕事の準備や段取りの段階です。

「何が何でも自分がやらなくてはならない」場合には無理なスケジュールや、非効率な業務、価値を生まない仕事などを、計画の段階から徹底的に排除します。

だってそうですよね。結果が全部自分が行う仕事に降りかかるわけですから。

無理なスケジュールを組めば組むほど自分の帰宅時間が遅くなるわけです。

そこには圧倒的な業務改善インセンティブが生まれます。

一方で「自分の仕事が終わらないでも、他部署が助けてくれるだろう」という意識があればあるほど、このインセンティブが薄れます。

結果、無理なスケジュールを組んだり、非効率な業務をダラダラやったり、無駄な仕事をせっせとこなしたりして、「他部署に手伝ってもらう」という状況になりやすくなります。

そういう状況が会社にとって何のプラスにならないのは言うまでもありません。冷徹でも、決して助けないという姿勢が重要です。

専門特化集団のシナジー効果こそが組織の強み

なぜ多くの企業は組織を部署で分けているのでしょうか?

社長1人だけが社員ならまだしも、社員が10人も居れば営業担当、総務担当とその役割は分かれます。

なぜ役割を分けるのでしょうか?

全員が全員、営業も総務も経営も、少しずつやればいいと思いませんか?

しかし現実には組織が大きくなればなるほど、部署は細分化される方向に行きます。

なぜ??

これは野球で考えると分かりやすいです。

選手全員がイチロー選手のチームと、セ・リーグで最下位のチームとではどちらが強いでしょうか?

これは最下位のチームがボロ勝ちするはずです。

イチロー選手は走攻守に秀でた名選手ですが、彼よりもコントロールの良いピッチャー、パワーのある強打者、判断力に優れたキャッチャー、足の速い野手はたくさんいます。

そういった選手を集めてきて一つのチームを作ると、総体としてはイチロー9人のチームよりも強いものが出来上がるのです。

チームで働く場合は、各個人の各能力の平均値ではなく最大値がチームとしての実力になります

走力の無い人にはあまり走らせず、パワーのある人に4番を打ってもらう。
打たなければ行けない場面ではピッチャーから代打に打者を変更する。
ここぞという時に、先発投手からリリーフ投手に交代する。

そうやって自分の得意な能力を使い、自分の不得意な能力を使わない事で、なんでもソツなくこなせる個人の集団よりも優秀な成績を収める事が出来るのです。

それがシナジー効果と言われるものです。

野球と同様に、仕事でも営業担当者と経理担当者では求められる資質・知識は違います。

それ故、会社では業務によって部署をわけ、各々の部署で必要な資質・知識を洗い出します。

そしてそれらに個々人の得意な能力と知識をマッチングし、シナジー効果を最大限に発揮させるように適材適所を探る訳です。

チームを構成する個々人としては、自分が持つ長所を日々深化させ、その長所を存分に発揮する事で、チームの最大値を高くするわけです。

短所を補っていくのも悪くはない*1ですが、それよりも長所をどんどん深化させた方が、最大値が増える分、チームとしては強くなります。

前置きが長くなりましたが、他部署の業務を手伝うという事はつまり、パワーヒッターがピッチャーをやったり、ピッチャーが代打で4番を打ったりする事です

そんな野球チームありますか??

しかし、野球ではそういった他職種の業務を手伝う事は異常と映るのに、仕事になると、総務部が経理部の仕事を、経理部が営業部の仕事を手伝ったりするのが日常に見える場合がしばしばあります。

繰り返しになりますが、総務部と経理部とで必要とされる能力は、事務作業という共通部分はあるにしろ、専門知識を始めとしてほとんど違います。*2

他部署の仕事を手伝う事は要するに、その部署の部員より、比較的不慣れで適性に欠ける者が業務に携わる事を意味します。

それはチーム全体の仕事の質を悪化させ、余計な仕事の量を増やします。*3

これは経営的によろしくないのは言うまでもありません。

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「自部署の業務改善によって余裕が出来たから、その余裕の範囲内で他部署を助ければ、チームの成績も良くなるのでは?」と思う方も居るかもしれません。

しかし、自部署の業務改善で余裕ができたのならば、自部署の更なる改善が先です。

なぜなら、自部署の業務改善は自部署しか出来ないから、また、自部署の長所を伸ばせるからです。

野球に例えると、チームで最速の代走要員が「100mを1秒速く走れるようになった!」のであれば、次に来るのは「よし!投力を鍛えて守備力を高めよう!」ではなく「もっと速く走れるようにしよう!」「走塁について勉強しよう!」ですね?

彼がいくら守備力を鍛えた所で、既に投力の高い選手は居る訳で、彼と同じようなパフォーマンスを出してチーム全体の守備力の向上に寄与できるには相当時間が掛かります。

同じように人事部だと「エクセルの資格を取って、業務スピードが上がって余裕ができた!」のであれば、次に来るのは「税理士の資格を取って経理部を助けよう!」ではなく、「社労士の資格を取ろう!」ですね?

既に経理部に経理のエキスパートが居るのだから、そのエキスパートと同等以上のパフォーマンスを出すにはこれも相当な時間が掛かります。*4

だから他部署に手を貸している暇があるなら、もっと自部署の改善を図る方がよほど効率的です。

あなたしかその仕事を出来ないのだから。優秀な投手には投手しか成れません。

会社全体の価値向上を考えるならば、他部署の仕事に手を貸している時間を自部署の価値向上に費やす。
そしてチーム全体としてのちからを高める方が正解です。

自部署の仕事をこなしながらも他部署の仕事が出来るほどの優秀な人材の、時間と思考を奪ってしまう

他部署から「手伝って!」と言われる社員はたいてい優秀です。

適当な指示でもその意味を汲み取って、ある程度形に仕上げてくるような人です。

やり方を事細かに説明しないと動かず、任された仕事に責任感を持てないような人には他部署から「手伝って!」などと声は掛かりません。

しかし、優秀な社員は自部署の仕事でも価値を生み出しているスターです。

他部署の仕事を手伝ってもらえばもらうほど、彼が本領を発揮できる自部署のフィールドで活躍する機会が減ります。

活躍する時間も減りますし、思考も他部署の仕事に奪われてしまいます。

優秀な人は他部署の仕事でも持ち前の思考力を使って「考えて」仕事をしてしまいます。

例えどんな単純作業でも「言われた事だけを、そこそこに」なんて考えられません。

「なんとか他部署の期待にこたえたい!助けたい!会社に貢献したい!」と思ってプラス思考で仕事に全力で、それこそ自部署の問題と並行するレベルで「考える」はずです。

だからこそ、そういう人に助っ人を頼むのでしょう。*5

しかし、他部署の人間が全うできる仕事に「考える」べき仕事はほとんどありません。

電話で連絡したり、パワーポイントを作ったり、エクセルで集計したりといったレベルです。

優秀な人が時間を割いて、そのレベルの仕事をいくら「考えて」も改善できる範囲はたかが知れています。

ワークフローを見直したり、仕事の目的を再定義したり、誰かを説得したり、そういった「考える」事によって1にも10000にもなるレベルの仕事に他部署の人間は携わる事は出来ないのです。

つまり、他部署の仕事を手伝うという事は、優秀な人の時間や思考を比較的価値のない仕事に奪われる事を意味します。

会社全体にとってそれは非常にもったいないですね。

ちなみにワークフローの改善など「考える」レベルの仕事を他部署に振ってしまうような部署は、存在価値が全くありません。

優秀な助っ人は、手伝いをしながらきっと「この部署を潰すにはどうすればよいか」を考えるに違いありません。


―――
以上です。

そうは言っても、他部署の業務を引き受けても良い場合があります。

100分掛かる作業を他部署がやっているのを見て「こうすれば10分で終わるのに・・・」と思った場合です。

この場合には積極的にアドバイスをして知識の共有を図ります。

確かに自部署に取り組む時間は1分減るかもしれませんが、他部署の仕事が大幅に効率化されます。

犠牲にする自部署に取り組む時間、と、他部署の改善効果、を冷静に見極めて、アドバイスをしていく。

これ位は引き受けても構わないと思います。

*1:もしも誰かが倒れた時にそれを補える

*2:大部分同じ能力が必要とされているのであれば、部署を分ける必要がありません。

*3:論理的思考能力に欠ける者にプログラミングさせてみればどうなるかを想像してください

*4:更には人事部の仕事をしながら、かつ、経理部のエキスパートと同じレベルを目指すわけですから、可能性にも疑問を生じますね

*5:ホリエモンこと堀江貴文さんは、収監中、囚人に課される雑務に業務改善を仕掛け、圧倒的なパフォーマンスを出した事は有名です